領域設置の目的
本学の人文社会科学分野のうち、歴史学の領域はこれまで高い評価の研究業績を最も多く生み出しており、国際的にも高い評価を受けている。こうした歴史学分野の強みである研究の成果をさらに国際的に発信するとともに、社会に還元していく必要がある。本領域では新たな分析法と新資料、従来の歴史学的研究法では解明できなかった東アジアレベルの「農耕・農業史・農耕社会史」に関する新たな歴史的理論の構築を目指す。
研究目的
『新資料分析による東アジア農耕・
農耕史・農耕社会史の構築』
構成員
研究メンバーと研究内容
- 専門
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考古学・東北アジア先史学・東アジア農耕史・縄文時代の植物利用史
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研究内容
「人為」化石である土器を歴史研究の対象資料とする「圧痕法」と呼ばれる調査手法によって、これまで狩猟・採集経済と定義されてきた縄文時代にすでにダイスやエゴマなどの植物栽培が行われ、それらを加害する貯蔵食物害虫までも存在したことが明らかになった。また、最近では多量の種実や害虫を混入した土器も発見が相次ぎ、縄文人たちの栽培植物に対する心象にまで言及できるようになり、縄文時代に関する史観の見直しが行われつつある。
このような事実は、これまで遺跡土壌を対象に調査研究が行われてきた植物や昆虫の研究の限界性を示すとともに、土器が新たな歴史資料の資料源となりうる可能性を示した点で意義がある。本研究法が全国で実施されている遺跡発掘・整理の場面に実装されれば、死蔵されている土器片に応用でき、新たな歴史的事実の解明以外にも、文化財の活用という面でも社会的に貢献できる可能性がある。さらには、わが国と同じ二次的農耕起源地である韓国、中国南部、ロシア沿海州地方、モンゴルなどの諸地域においても農耕の起源や展開に関する新たなパラダイムを構築できる可能性も秘めている。
本プロジェクトでは、具体的な資料を用いた実証研究によって、この土器圧痕法の効率的な手法の確立と資料学的意義を示す理論の整備を行う。
主な著書・論文
- 『縄文時代の植物利用と家屋害虫-圧痕法のイノベーション』(吉川弘文館 2019)
- 『昆虫考古学』(KADOKAWA 2018)
- 『タネをまく縄文人-最新科学が覆す農耕の起源』(吉川弘文館 2006)
- 『東北アジア古民族植物学と縄文農耕』(同成社 2011)
- 『Jr. 日本の歴史1 国のなりたち』(共著 小学館 2010)
- 専門
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中国明清社会経済史
- 関連リンク
研究内容
中国江南農村社会史の研究
徽州文書――賦役黄冊・魚鱗図冊文書、族譜等を活用して、中国江南山間小盆地における農村社会の実態をかつてない実証水準で明らかにする。これは、南宋期に確立した牛犂耕を基軸とした集約的な水稲作農業を基礎とした農村社会の具体像であり、江南デルタ地帯を素材とした農村社会の理解を相対化する。同時に、丈量(土地測量把握)の性格を比較史的に再検討し、丈量の中国的特質を明らかにするとともに、南宋・紹興の経界法、元・延祐の経理、明・洪武丈量、張居正の丈量の意味を再検討して北宋期から明末に至る時期の郷村制(国家の統一的人民編成)の展開過程を把握する。
主な著書・論文
- 『宋元郷村社会史論―明初里甲制体制の成立過程―』(汲古書院 2010)
- 「事産売買の頻度と所有事産の変動―万暦年間、徽州府休寧県27都5図所属人戸の事例―」 『中国史学』27、145-164頁(2017)
- 「地主佃戸関係の具体像のために―万暦9年休寧県27都5図における租佃関係―」三木聰編『宋―清代の政治と社会』汲古書院、103-154頁(2017)
- 「『丈量保簿』と『帰戸親供冊』から―万暦年間、徽州府休寧県27都5図の事産所有状況―」『東洋史研究』75-3、107-136頁(2016)
- 専門
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日本中世史・近世史
研究内容
日本近世社会形成史の研究。日本における近世的社会編成の特質が形成される過程を中世の側から見通すことを主たる課題としている。学界の現状は、戦国期の権力研究においては、藩政成立まで一貫した視野を持つべき自覚そのものがはなはだ希薄であり、江戸時代初期の研究は朝幕関係論以外は空白状況が続いている。また下人身分と区別された百姓身分の法的地位は専制的幕藩国家支配の根拠とされ、中世後期に百姓がつくり出した社会組織である村共同体には正当な位置が与えられていない。
こうした状況を克服するため、村共同体と近世国家成立の政治過程の双方について、16世紀~17世紀を通じて現存する永青文庫細川家文書、細川家老松井家文書、同米田家旧蔵文書、同沢村家旧蔵文書、その他の庄屋文書等の系統的分析によって考察を深めている。これは、大名家資料論としての意義をも有する。
主な著書・論文
- 『細川忠利 ポスト戦国世代の国づくり』(吉川弘文館、2018)
- 『日本近世社会形成史論 戦国時代論の射程』(校倉書房、2009)
- 『戦国時代の荘園制と村落』(校倉書房、1998)
- 『歴史にいまを読む 熊本・永青文庫からの発信』(熊日新書、2020年)
- 「戦国期地域社会から近世領国地域社会へ」『歴史学研究』989, 90-94頁、2019
- 「近世初期における百姓の法的地位と村共同体――島原一揆後の地域復興をめぐって――」『永青文庫研究』2, 1-26頁, 2019)
- 熊本大学永青文庫研究センター編『永青文庫叢書 細川家文書 島原・天草一揆編』(吉川弘文館、2020年)
- 専門
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日本近世史・近代史
- 関連リンク
研究内容
明治維新史の研究。19世紀後半の日本社会が経験した明治維新は、世界史的な視点でみたとき、領主制・領主的土地所有の徹底的な廃絶、大きな租税国家の形成、地域社会における近代化事業の速やかな完遂など、非常に際立った変革をもたらした。これら変革の意義を正しく把握するためには、維新の前提となった日本近世社会の構造、とくに領主層(統治者)と対極にある百姓層(被統治者)が運営した、村共同体を基礎とする地域社会に着目し、近世後期から明治前期にかけたその展開を、統治機構との関係をふまえて明らかにする作業が不可欠である。こうした課題を克服するため、18~19世紀にかけた永青文庫細川家文書、熊本藩の地域行政機構である「手永」関係文書、廃藩置県後の県庁文書(熊本県公文類纂)、その他の町村役場関係文書等の総合的分析に基づき、社会経済史の観点から考察を深めている。
主な著書・論文
- 『永青文庫叢書 細川家文書 熊本藩役職編』(編集担当 吉川弘文館 2019)
- 『岩波講座 日本経済の歴史 第2巻 近世』(共著 岩波書店 2017)
- 『日本近世の領国地域社会』(共編 吉川弘文館 2015)
- 「近世後期藩領国の行財政システムと地域社会の『成立』」『歴史学研究』885、76-85頁、(歴史学研究会 2011)
- 専門
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中国・東アジア考古学
- 関連リンク
研究内容
土器は地中から出土する様々なモノの中で、最も目にする機会が多い遺物である。これまでの考古学では、土器は時間や空間を測る「ものさし」として研究されることが多かった。しかし、土器本来の機能は、煮沸や供膳、貯蔵などの容器としての役割である。したがって、土器を作った人々は、その用途に応じて形やサイズ、粘土の質や焼成方法などを決定したはずである。このような視点から、近年、土器の使用方法について積極的に研究を進めている。主な研究方法は上記した土器自体の研究に加え、土器の表面に残るススやコゲなどに注目した使用痕研究、使用痕研究などによる仮説を検証し、さらに新たな知見を得る実験的手法を採用している。
また、土器の用途を解明するためには、その内容物を明らかにしなければならない。特に調理頻度が高かったと考えられる雑穀やイネなどの穀物利用を研究対象として、文献史学、民族考古学、植物考古学、土器残存脂質分析などの成果も採り入れている。さらには、食物を摂取した人骨から食性に迫る安定同位体分析の成果にも注目している。
考古学を核に据えながら、様々な分野の研究成果を統合することで、これまで等閑視されてきた過去の土器利用と食文化を再構築し、新たな側面から中国、さらには東アジアの歴史を照らし出していきたい。
主な著書・論文
- 「下七垣文化研究の現状と課題」『中国考古学論叢―古代東アジア社会への多角的アプローチ―』同成社、81-100頁、2021
- 「河姆渡文化と粥」『河姆渡と良渚ー中国稲作文明の起源ー』雄山閣、101-110頁、2018
- 「新疆ウイグル自治区の陶器づくり」『やきもの――つくる・はこぶ・つかう』近代文藝社、110-121頁、2017
- 『中国新石器時代の交流と変遷』六一書房、全222頁、2015