領域設置の目的
本学の人文社会科学分野のうち、歴史学の領域はこれまで高い評価の研究業績を最も多く生み出しており、国際的にも高い評価を受けている。こうした歴史学分野の強みである研究の成果をさらに国際的に発信するとともに、社会に還元していく必要がある。本領域では新たな分析法と新資料、従来の歴史学的研究法では解明できなかった東アジアレベルの「農耕・農業史・農耕社会史」に関する新たな歴史的理論の構築を目指す。
研究目的
『新資料分析による東アジア農耕・
農耕史・農耕社会史の構築』
構成員
研究メンバーと研究内容
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中国明清社会経済史
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研究内容
中国江南農村社会史の研究
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安徽博物院蔵『万暦休寧県27都5図黄冊底籍』
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舞台となった休寧県27都5図=現在の陳霞郷の景観
徽州文書――賦役黄冊・魚鱗図冊文書、族譜等を活用して、中国江南山間小盆地における農村社会の実態をかつてない実証水準で明らかにする。これは、南宋期に確立した牛犂耕を基軸とした集約的な水稲作農業を基礎とした農村社会の具体像であり、江南デルタ地帯を素材とした農村社会の理解を相対化する。同時に、丈量(土地測量把握)の性格を比較史的に再検討し、丈量の中国的特質を明らかにするとともに、南宋・紹興の経界法、元・延祐の経理、明・洪武丈量、張居正の丈量の意味を再検討して北宋期から明末に至る時期の郷村制(国家の統一的人民編成)の展開過程を把握する。
主な著書・論文
- 『宋元郷村社会史論―明初里甲制体制の成立過程―』(汲古書院 2010)
- 「事産売買の頻度と所有事産の変動―万暦年間、徽州府休寧県27都5図所属人戸の事例―」 『中国史学』27、145-164頁(2017)
- 「地主佃戸関係の具体像のために―万暦9年休寧県27都5図における租佃関係―」三木聰編『宋―清代の政治と社会』汲古書院、103-154頁(2017)
- 「『丈量保簿』と『帰戸親供冊』から―万暦年間、徽州府休寧県27都5図の事産所有状況―」『東洋史研究』75-3、107-136頁(2016)
- 専門
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日本中世史・近世史
研究内容
寛永15年2月29日 熊本藩士陣佐左衛門指出(熊本大学所蔵松井家文書)
島原・天草一揆が籠城する原城で天草四郎の首を取ったとの申告書
日本近世社会形成史の研究。日本における近世的社会編成の特質が形成される過程を中世の側から見通すことを主たる課題としている。学界の現状は、戦国期の権力研究においては、藩政成立まで一貫した視野を持つべき自覚そのものがはなはだ希薄であり、江戸時代初期の研究は朝幕関係論以外は空白状況が続いている。また下人身分と区別された百姓身分の法的地位は専制的幕藩国家支配の根拠とされ、中世後期に百姓がつくり出した社会組織である村共同体には正当な位置が与えられていない。
こうした状況を克服するため、村共同体と近世国家成立の政治過程の双方について、16世紀~17世紀を通じて現存する永青文庫細川家文書、細川家老松井家文書、同米田家旧蔵文書、同沢村家旧蔵文書、その他の庄屋文書等の系統的分析によって考察を深めている。これは、大名家資料論としての意義をも有する。
主な著書・論文
- 『細川忠利 ポスト戦国世代の国づくり』(吉川弘文館、2018)
- 『日本近世社会形成史論 戦国時代論の射程』(校倉書房、2009)
- 『戦国時代の荘園制と村落』(校倉書房、1998)
- 『歴史にいまを読む 熊本・永青文庫からの発信』(熊日新書、2020年)
- 「戦国期地域社会から近世領国地域社会へ」『歴史学研究』989, 90-94頁、2019
- 「近世初期における百姓の法的地位と村共同体――島原一揆後の地域復興をめぐって――」『永青文庫研究』2, 1-26頁, 2019)
- 熊本大学永青文庫研究センター編『永青文庫叢書 細川家文書 島原・天草一揆編』(吉川弘文館、2020年)
- 専門
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日本近世史・近代史
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研究内容
「手永」の責任者である惣庄屋の肖像画(個人蔵)
明治維新史の研究。19世紀後半の日本社会が経験した明治維新は、世界史的な視点でみたとき、領主制・領主的土地所有の徹底的な廃絶、大きな租税国家の形成、地域社会における近代化事業の速やかな完遂など、非常に際立った変革をもたらした。これら変革の意義を正しく把握するためには、維新の前提となった日本近世社会の構造、とくに領主層(統治者)と対極にある百姓層(被統治者)が運営した、村共同体を基礎とする地域社会に着目し、近世後期から明治前期にかけたその展開を、統治機構との関係をふまえて明らかにする作業が不可欠である。こうした課題を克服するため、18~19世紀にかけた永青文庫細川家文書、熊本藩の地域行政機構である「手永」関係文書、廃藩置県後の県庁文書(熊本県公文類纂)、その他の町村役場関係文書等の総合的分析に基づき、社会経済史の観点から考察を深めている。
主な著書・論文
- 『永青文庫叢書 細川家文書 熊本藩役職編』(編集担当 吉川弘文館 2019)
- 『岩波講座 日本経済の歴史 第2巻 近世』(共著 岩波書店 2017)
- 『日本近世の領国地域社会』(共編 吉川弘文館 2015)
- 「近世後期藩領国の行財政システムと地域社会の『成立』」『歴史学研究』885、76-85頁、(歴史学研究会 2011)
- 専門
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中国・東アジア考古学
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研究内容
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土器使用痕調査の様子(中国河南省鄭州市)
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雑穀収穫の民族調査(中国陝西省延安市)
土器は地中から出土する様々なモノの中で、最も目にする機会が多い遺物である。これまでの考古学では、土器は時間や空間を測る「ものさし」として研究されることが多かった。しかし、土器本来の機能は、煮沸や供膳、貯蔵などの容器としての役割である。したがって、土器を作った人々は、その用途に応じて形やサイズ、粘土の質や焼成方法などを決定したはずである。このような視点から、近年、土器の使用方法について積極的に研究を進めている。主な研究方法は上記した土器自体の研究に加え、土器の表面に残るススやコゲなどに注目した使用痕研究、使用痕研究などによる仮説を検証し、さらに新たな知見を得る実験的手法を採用している。
また、土器の用途を解明するためには、その内容物を明らかにしなければならない。特に調理頻度が高かったと考えられる雑穀やイネなどの穀物利用を研究対象として、文献史学、民族考古学、植物考古学、土器残存脂質分析などの成果も採り入れている。さらには、食物を摂取した人骨から食性に迫る安定同位体分析の成果にも注目している。
考古学を核に据えながら、様々な分野の研究成果を統合することで、これまで等閑視されてきた過去の土器利用と食文化を再構築し、新たな側面から中国、さらには東アジアの歴史を照らし出していきたい。
主な著書・論文
- 「下七垣文化研究の現状と課題」『中国考古学論叢―古代東アジア社会への多角的アプローチ―』同成社、81-100頁、2021
- 「河姆渡文化と粥」『河姆渡と良渚ー中国稲作文明の起源ー』雄山閣、101-110頁、2018
- 「新疆ウイグル自治区の陶器づくり」『やきもの――つくる・はこぶ・つかう』近代文藝社、110-121頁、2017
- 『中国新石器時代の交流と変遷』六一書房、全222頁、2015
- 専門
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中国宋元時代の政治・社会史
- 関連リンク
研究内容
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南宋時代の宰相史彌遠の墓
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上海で発掘された元代の水閘遺跡
中国史上の時代区分において、宋元時代は一つの画期となる時代である。北宋後期に行われた元豊官制は、その後の中国王朝の中央官制の祖型となり、元代に形成された地方統治のあり方もまた明清時代に大きな影響を与えることになった。本研究ではこれらの点に着目し、宋元時代の知識人の手になる文集史料や水利関係の史料を活用することで、両王朝の中央官制、および江南における水利政策のあり方を考究し、それによって明朝の中央官制、および地方統治との連続性を立証することを目指す。
主な著書・論文
- 『南宋政治史論』(汲古書院、2025年)
- 「元代浙西の財政的地位と水利政策の展開」(宋代史研究会研究報告第11集『宋代史料への回帰と展開』汲古書院、2019年所収)263-325頁
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南宋時代の宰相史彌遠の墓
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上海で発掘された元代の水閘遺跡
- 専門
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中国近代社会経済史
- 関連リンク
研究内容
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四川省檔案館所蔵・巴県档案(マイクロフィルム)案卷の表紙
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四川通省勧業道道台・周善培による批文(巴県檔案より)
中国経済の形成過程を考察する上で、沿海先進地域と内陸後進地域の不均等な発展構造は重要な分析視角を提供する。アヘン戦争以降、中国は欧米諸国との接触を通じて近代世界システムへと再編成されていくが、この過程において、性格を異にする二つの経済地域が、いかなる経路と論理によって世界経済に包摂されていったのかという問いは、従来の沿海地域、とりわけ開港場に偏重した研究状況の中では等閑視されてきた。
こうした学術的状況を背景に、沿海先進地域(江蘇・浙江)と内陸後進地域(四川)という二つの経済地域を比較し、両地域に共通する蚕糸業の動態を通してこの課題に迫る。乾隆期から清末に至る巴県档案、清末の新聞・雑誌、さらに日本側資料を体系的に分析し、その流通構造の変容と再編過程を実証的に検討することにより、「二つの顔を持つ中国」が世界市場に包摂されていった多様な経路と論理を浮き彫りにする。従来の沿海偏重史観を相対化し、中国経済の近代的統合の実像を、より立体的かつ包括的に把握する。
主な著書・論文
- 「近代江浙生糸市場的結構転型與流通形態的演変」『南国学術』15-3、74-88頁(2025)
- 「国際生糸市場重組之下:19世紀70-90年代江浙生糸的輸出與流通」『南国学術』13-3、54-66頁(2023)
- 『明清中国的経済結構』(足立啓二著 楊纓訳)江蘇人民出版社、総557頁(2024)
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四川省檔案館所蔵・巴県档案(マイクロフィルム)案卷の表紙
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四川通省勧業道道台・周善培による批文(巴県檔案より)