令和2年-6年度 文部科学省 科学研究費補助金研究 学術変革領域研究(A)

領域番号:20A102

組織/計画研究

 研究の円滑な推進のために、以下の5つの班を考古班と化学班の大きく2つのグループにまとめた。各班の連携は、A01班で得られた基礎資料の共有化などを通じて密接に保たれ、研究成果のさらなる向上が見込まれる。

総括班の組織

研究代表者
  • 小畑 弘己(熊本大学:考古学)
研究分担者
  • 宇田津 徹朗(宮崎大学:農学)
  • 國木田 大(北海道大学:年代学・考古学)
  • 阿部 昭典(千葉大学:考古学)
  • 宮田 佳樹(東京大学:化学)
  • 佐々木 由香(金沢大学:考古学)
  • 西田 泰民(新潟県立博物館:考古学)
  • 小林 謙一(中央大学:考古学・年代学)

各計画研究の目的と研究方法

A01班

本研究班は、既存の土器圧痕法の限界を克服し、精確な議論を可能とする基礎資料を安定的に得るため、遺物整理の最前線(行政組織)にX線機器を設置し、多量の土器を悉皆的かつ徹底的に調査する。そして、そこで発見された土器付着・包埋炭化物、植物質混和材など、土器内外の生物痕跡を領域研究の各班に試料として供し、縄文時代の栽培植物や弥生時代の大陸系穀物(イネ・アワなど)の出現時期と拡散過程を科学的に立証する手掛りとする。この行政現場への実装実験が成功すれば、領域研究の目的である次世紀型の考古資料学「土器総合分析学」の構築に大きく寄与するものと考えられる。具体的な研究は、協力行政機関にX線CT機能付きの軟X線装置を配置し、地域ごとの土器を悉皆調査する。その成果を各研究計画班に基礎研究資料として提供する。それと同時に、AI(DL法)によるX線画像同定法の開発や有機混合物調査に特化した軟X線機器の開発を行う。

A01班の研究組織
研究代表者
  • 小畑 弘己(熊本大学:考古学)

A02班

本研究班は、土器内外に残る生物や土器に付着する動植物によって作られた土器圧痕や空洞の形態学的研究を行う。土器の製作時に使用された圧痕や空洞として粘土内に残る昆虫や貝類などの動植物や土器使用時に焦げて残る動植物は、様々なプロセスで変形し、本来の形態を失っている。よって、従来の形態学的な方法によってこれらの有機遺物を特定することは非常に複雑になる。本研究班では、土器内外で検出される人工的に処理および変形された動植物の残骸の参照のためのデータセットを作成し、新たな形態学的識別法を開発する。また、同定された動植物の生態や効能から、食用、染料、薬用、出汁などのさまざまな用途を解明する。基礎研究として、土器のX線画像として見ることのできる種実・繊維・木材・昆虫・貝類の圧痕や空洞を同定する(研究1)。応用研究として、土器の表面におこげとして残る炭化種実や繊維、土器の植物性混和材として入った繊維、土器製作時の敷物や施文具の痕跡などの動植物素材を同定する(研究2)。開発研究として、上記の遺体同定の際に参照できる加工・変形した動植物の最新のリファレンス標本を作製し(研究3)、土器胎土内の圧痕のX線画像による同定法を開発する(研究4)。これらの成果を総合することで、利用された動植物の生態・効用を科学的または化学的に追究し、土器の製作と利用の実態を解明する。

A02班の組織
研究代表者
  • 佐々木 由香(金沢大学:考古学)
研究分担者
  • 能城 修一(明治大学:木材組織学)
  • 伊藤 美香(昭和女子大学:繊維学)
  • 黒住 耐二(千葉県立中央博物館:貝類学)
  • 首藤 剛(熊本大学:薬学)

A03班

本研究は、植物性混和材を用いた土器(繊維土器)の製作技術復元を主眼とする。縄文時代初期の1000年以上の間、貯蔵や調理には不向きな多孔質の繊維土器が使われ続けた理由、また原料の植物については、ほとんど未解明の状態にある。本研究では、(1)A01班による土器のX線画像を解析し、植物性混和材の形状と器壁の中の分布状況を検討し、A02班より利用可能性のある植物種の情報提供を受け、諸外国での考古学的、民族誌的事例を元に、植物性混和材を使った土器製作技術を復元する。(2)復元製作された"繊維土器"の物理的工学的特性の計測や使用実験により、無機質混和材使用土器との機能上の差を検証する。(3)土器胎土中のプラント・オパールの定量・定性分析を行い、プラント・オパールを含む植物の混和の可能性をさぐり、また同時に土器胎土から環境や生業情報を得る方法を検討する。

A03班の組織
研究代表者
  • 阿部 昭典(千葉大学:考古学)
研究分担者
  • 西田 泰民(新潟県立歴史博物館:考古学)
  • 宇田津 徹朗(宮崎大学:農学)
  • 水ノ江 和同(同志社大学:考古学)

B01班

本研究班は、包埋・付着・吸着炭化物など、様々な状態で土器に残存する有機物を放射性炭素年代の測定、脂質分析、炭素・窒素同位体を分析することで、「時間」と「古食性」という観点から、土器の来歴を復元する。「基礎試料研究」では、種実の潜在圧痕に含まれる微量の炭化物を微小量炭素年代測定法によって分析し、日本列島における縄文時代の栽培植物(マメ類・エゴマ)や縄文弥生移行期の大陸系穀物(イネ・アワ・キビ・ムギ類)の流入時期(画期)を特定し、栽培植物や大陸系穀物の比率を推定し、農耕化過程の地域的な伝播過程を復元する。「応用研究」では、弥生から古墳時代にかけて、潜在圧痕の有無にかかわらず、器種・器形分類、使用痕観察、脂質分析を行う学際的なアプローチにより、「煮炊炒蒸」など穀物調理に特徴的な調理形態を加味し、当時の食の復元(栽培植物や大陸系穀物利用割合の量的復元)を目指す。さらに、「開発研究」として、「脂質バイオマーカー」、「炭化物の来歴推定が可能な品質評価法」など、新規研究手法を開発する。

B01班の組織
研究代表者
  • 國木田 大(北海道大学:年代学・考古学)
研究分担者
  • 宮田 佳樹(東京大学:化学)

B02班

本研究班は、土器型式と栽培植物の高精度年代体系構築を目指す研究である。そのため、日本列島新石器文化の炭素14年代測定法による実年代体系を完成させ、それらと領域研究の基礎試料研究で得られた土器胎土包埋有機物から復元される生態史を対比させる。それを可能にする手法として、軟X線機器による土器包埋炭素(穀物・種実)の多量検出とそれらの微量炭素測定法による測定を採用する。これにより、栽培植物の起源や大陸系穀物の流入と拡散のようすを年代的に正確に描き出すことが可能となる。さらに、応用研究として、同位体分析による食性復元、定住度や生業を反映する縄紋土器調理物における栽培植物の把握などに自然科学分析を適用し、土器包埋炭素の年代測定を基軸に、日本列島、朝鮮半島、中国大陸など東アジア新石器文化における自然環境と文化変化の関連、地域間交流史を体系化する基盤を作る。最終的に、先史時代に誤差のない実年代を付与し、様々な年代測定法の相互補完と自然科学と考古学による新たな研究法の開発を目指す。これにより土器型式編年の高精度実年代化(数十年単位)と世界史レベルでの広域間比較および生態環境変化の実年代による文化変化との対応が可能となり、植物食・海洋資源の比重の違いによる食性変化や有用植物の使用頻度復元による文化変化を把握し、土器や定住生活様式の初現から農耕の採用への過程を体系化した新たな先史時代像を示す。

B02班の組織
研究代表者
  • 小林 謙一(中央大学:考古学・年代学)
研究分担者
  • 根岸 洋(東京大学:考古学)
  • 柴田 昌児(愛媛大学:考古学)