令和2年-6年度 文部科学省 科学研究費補助金研究 学術変革領域研究(A)

領域番号:20A102

公募研究

2021年度公募採択者研究紹介

A01

種実・昆虫圧痕分類のためのAIモデルの開発

MENDONCA・DOS・SANTOS・ISRAEL(熊本大学:情報工学)

本研究班は、土器に残された種実・昆虫圧痕の分析・同定を可能にするAIモデルを開発することが主な目的である。近年、考古学の世界では、土器のX線CT画像を撮影し、分析することで新たな発見が確認されているが、この分析には一部の研究者に限られた高度な専門知識と長年の経験が必要である。したがって、より広範囲、多量の土器を効率よく分析するためには、以上に示した考古学研究者の知見(分析基準)を備えたAIモデルの開発が必至である。具体的には、長年日本考古学の課題と言われているイネの同定を主な目的として、それに類する種実や昆虫の痕跡を判別できるようにAIモデルを訓練する。本研究によって開発するAI モデルが社会実装可能となれば、日本全国の博物館等に未活用のまま保存されている土器の分析効率を飛躍的に向上させ、新たな考古学的発見がもたらされることが期待できる。


A04

炭化種実塊と多量種実圧痕から探る先史時代の種実利用

山本 華(同志社大学:考古学)

遺跡から出土する大型植物遺体の中には、特定の種実が多数まとまった状態の炭化種実塊や、土器に付着した状態の種実が存在する。また、近年では一部の土器に多数の種実圧痕が確認される事例も増えている。こうした状態で確認される種実は、特定の分類群に偏る傾向があり、当時の利用価値や利用形態を反映している可能性があるが、その実態は分かっていない。本研究では、遺跡から炭化種実塊や土器付着炭化物、多量圧痕土器として出土する種実の集成を行い、分類群や出土状況、状態などの傾向を把握するとともに、それぞれの種実の機能性や生育方法などを総合的に検討し、炭化種実塊や土器圧痕として種実が頻出する背景、当時の種実の利用価値や利用形態の解明を目指す。


B01

極微量炭素試料の高効率14C-AMS測定システムの構築

尾嵜 大真(東京大学:年代学)

従来の加速器質量分析(AMS)計による放射性炭素年代測定法では測定試料調整および測定に1mg程度の炭素量を必要とするため、土器胎土中潜在圧痕の炭化種実などのように炭素量が1mgに満たない資料は測定対象とされてこなかった。しかし、これらの資料に対する放射性炭素年代測定法を確立することで、海洋リザーバ効果や古木効果が影響しない、より確実な放射性炭素年代を土器資料に与えることが可能となる。
我々、東京大学総合研究博物館放射性炭素年代測定室では、すでに試験的に0.1mg程度の微量炭素量での放射性炭素年代測定を実現している。本研究では、大気中二酸化炭素の汚染などを軽減する高性能コックなどを用いた測定試料調整システムの構築することで、さらに炭素量が少ない超微量炭素量(0.1mg未満)での放射性炭素年代測定法の確立を目指し、定常的に多数の測定を行うために調整された測定試料の試料ホルダーへの充填作業のコンピュータ制御装置の開発を行い、AMS測定におけるプロトコルについても最適化を行うことで、最終的に超微量炭素の放射性炭素年代測定を実施する新たなシステムを構築する。


B02

遺跡出土木材の単年輪データに基づく暦年較正の高度化と炭素14年輪年代法の確立

箱崎 真隆(国立歴史民俗博物館:年代学)

2010年代に日本で急速に発展した「酸素同位体比年輪年代法」により、様々な時代の木材に暦年代が与えられ、日本産樹木の炭素14データを充実させるチャンスが到来している。すでに一部のデータは北半球標準暦年較正曲線の最新版「IntCal20(Reimer et al. 2020)」に採用され、世界の歴史を書き換えている。本研究では日本の暦年較正で最も重要な時代のひとつ「1-3世紀」に狙いを絞り、1年輪単位の炭素14データを得て、炭素14年代法の高精度化と新たな手法開発を目指す。試料は佐渡島の低湿地遺跡から出土した木材である。本試料は酸素同位体比年輪年代法によって全ての年輪の暦年代が確定している。この試料において同じ暦年の年輪を繰り返し測定し、誤差を縮小して、細かなウィグルを復元する。炭素14は、1度の測定では大きな誤差が伴うが、同じ暦年の年輪には同じ量の炭素14が含まれるので、繰り返し測定し、データを平均することで誤差を小さくできる。紀元1-3世紀の単年輪を繰り返し測定し、そのデータを元に通常の測定では把握できない細かな炭素14挙動を復元する。このようにしてクオリティを高めたデータを次期IntCalの基盤データにするほか、炭素14の時系列変動に基づく年輪年代法の確立にもちいる。


C01

3Dマルチ入力・マルチ出力土器分類DLモデルの開発研究

山本 亮(東京国立博物館:考古学)

本研究班は、考古資料の三次元計測データ(3Dデータ)を活用して、機械学習を利用した分類を行うことを目標とする。3Dデータの取得は簡略化が進んでいるが、現状では詳細な3Dデータそのものを分析することはデータの容量と計算資源の問題から困難が多い。そこで3Dデータからさらに正確な法量などの1Dデータ、上下面や側面の正射投影画像すなわち2Dデータを生成し、容量を落とした3Dデータと組み合わせて分析する。このためには従来のように、単一の情報のみから回答を得るような単線的なモデルではなく、複数のデータを入力して回答を得る独自構造の機械学習法を使用する。本研究では計測がしやすく、多量の資料を用意でき、検証するための時期比定が容易な古墳時代・6世紀の須恵器蓋杯を検討対象として精度の深化を進めている。成果が出れば、順次他の資料についても検討を進める予定である。本研究のような3Dデータに即応した基礎分析技術を確立できれば、埋蔵文化財の現場で膨大な時間を費やしてきた型式の認定といった基礎作業を簡略化できることが見込まれる。